小人のヌクモリ
知っていますか?
幸せな家庭を育む家には、小人が住み着く、ということを・・・。
ある夫婦から女の子が生まれて間も無く、その家に小人が住み着き始めました。
小人は、小さな子供にしか見えません。
夫婦は、小人のことなどちっとも気がつかず、幸せな生活を暮らしていました。
生まれたばかりの女の子とともに・・・。
女の子が大きくなって、喋れるようになると、小人と女の子はよく話すようになっていました。
女の子の名前はリラ。
「ねぇ、お名前はなんていうの?」
「わしか?わしの名前はヌクモリ。リラが産まれた時からずっと一緒だったんじゃよ。」
「ずっと?」
「ずっとじゃ。」
「ヌクモリの鼻はどうしてそんなに大きいの?」
「リラが美味しいものを食べられるように、おいしいものを嗅ぎわけるためじゃ。」
「ヌクモリは、どうしてそんなに背がちっちゃいの?」
「リラがどんな狭い場所に迷子になっても見つけられるようにじゃ。」
「ヌクモリはどうして真っ白なヒゲが生えてるの?」
「リラが良い人に出会えるように、ヒゲが生えるくらいトシを取って人を見分けられるようにじゃ。」
「ふ〜ん。」
ヌクモリが言うように、リラのすぐそばにはいつもヌクモリがいました。
リラが保育園へ預けられる時も、小人はポケットの中に入って一緒にいたし、
小学校に入学する時だって、体育館でクラスメートに踏み潰されないように走り回っていました。
給食の時間もいたずらっ子のカジ君にピーマンをたくさん入れられないように見張っていました。
リラとヌクモリはいつも一緒でした。
リラは幸せに包まれていました。
大きくなった、リラには好きな男の子ができました。
リラは男の子と毎日毎日たくさん遊んだので、ヌクモリとはあまり遊ばなくなりました。
そんなある日、リラの大好きな男の子は遠くへ引っ越してしまいました。
寂しくなってヌクモリのことを探しましたが、どこにもいません。
部屋中どこを探しても見つからず、ぼーっと外を見ていて、ふと気付きました。
ヌクモリがいなくても、おいしいものを嗅ぎ分けられるし、迷子にならないくらいこの街のことも知れたし、人を好きになることも出来るようになったことに。
ヌクモリのおかげで私は自分で幸せを見つけられるようになったんだ。
リラは立ち上がって大きく深呼吸をしました。
勉強だって人一倍頑張るし、また恋だってする。
リラは大人になりました。
そう、ヌクモリはどこにもいなくなったのではなく、リラが大人になったのでヌクモリが見えなくなっただけなのでした。
そして、リラは大人になって家族が出来ました。
ヌクモリのことは忘れてしまって、赤ちゃんを抱きながらぼーっと外を眺めていた時、
赤ちゃんが窓辺を見てきゃっきゃと笑いだしました。
「どうしたの?何か見えるの?」
「・・・リラ、いつも一緒じゃよ。」
優しい白いひげを生やしたおじいさんが、ニコッと笑ったような気がしたのでした。
終わり